又吉直樹『火花』

2018年11月14日

(原文公開:2017年1月27日)

芥川賞受賞前に買ってそのまま積んだのですが、本当に惜しいことをしました。本当に面白かったんだから。文章が良かったけど、書かれている内容はかなり重く、最後の方ではネットの評価に左右される我々に対する問いかけもありました。

正反対の二人が出会い、長い年月を経てどう変わっていくのか。最後まで目が離せませんでした。

(以下、本文のネタバレがあるので追記にて続きを書きます。できれば本を読み終えてから、この先の感想ををお読みください)

火花

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又吉 直樹
文藝春秋
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花火大会で出会った漫才コンビ「スパークス」の徳永と、漫才コンビ「あほんだら」の神谷。神谷は徳永に自分の自伝を書くようにと言われ、忠実にそれを書き続ける。

徳永は――後に辞めることになるが――アルバイトをしながら少しずつお笑いのキャリアを重ね、漫才番組のレギュラーを勝ち取るまでに成長する。一方、神谷は劇場での仕事が嫌になり大阪から東京に引っ越したが、破天荒な生き方を貫き続けた末に借金を重ね続ける。

突如奇声をあげたり、突如局部を露出したり、ライブでは一本目では正々堂々と漫才をやって二本目では口パク漫才をするなど、タブーを物ともしない神谷の生き方は破滅型芸人そのものだった。対する徳永は自分の発言が誤解を招き誰かを傷つけてしまうのを恐れるほどの慎重派。漫才を続けて、レギュラーを獲得するまでに至った徳永もそのようなことを気にしなくなるが、彼は決して破滅型芸人にはならなかった。

徳永は1年間のレギュラー番組の終了とともに出番がなくなり、相方の結婚と出産を機にコンビを解散。解散ライブではしゃべり倒しと共に自分の率直な思いが語られる。これが実に良かった!

解散を報じたネットニュースのコメントで「面白くない」などと書き込まれたのを見て、徳永は達観しつつも、

必要が無いことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう? 一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。無駄なことを排除するということは、危険を回避するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑めるものだけが漫才師になれるのだ。それがわかっただけでもよかった。この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。(p130)

と、漫才を続けることが出来たことを率直に表すあたり、ネットニュースやネットの噂を見て過剰反応する自分が恥ずかしくなりました。こないだもグラブルのガチャ問題でやらかしたばかりだし……(スマホゲーはついていけません……、なにせやる時間がない。艦これもちょっとやったらまたサボっているし)。

それぞれが社会人となって新たな一歩を踏み出したスパークスの二人がいる一方で、神谷は借金を重ねた挙句に姿を晦ませ、ついに芸能事務所を解雇される。そして再び出会った時に神谷は――。

芸人であることに真摯に向き合い、奇行に走る神谷。そんな神谷を見ながら、淡々と伝記を書き続ける徳永。徳永は先輩である神谷に憧れ、彼に嫉妬し続けて長い年月を重ねるが、その時間は徳永にとっても決して無駄ではなかった。二流芸人止まりだったが漫才師として大成し、引退したその後の人生も保証された。一方の神谷はというと、本当に最後までやらかしてくれます。

文中でネットの評判を気にする話が出てきますが、かくいう自分もその一人。ネットの情報に左右されて今まで何度もやらかしたことか。人の評判を気にするより、自分がしっかりしていればいいのに。解散を報じたネットニュースのコメント欄を見ても怖気づかない徳永のようになれたのにと思うと、正直年齢不相応な自分の未熟さを恥じるばかりです。

10年近く、もしくはそれ以上に及ぶ二人の静かなる戦いの日々。気になった方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。一気に読める分量なので、普段はライトノベルしか読まない人にもおすすめします。

ホントに本を読むのは楽しい。ゲームに疲れたら小説を読みたくなるんだけど、ホント、自分もトシ食ったなぁ……。